事業承継を考えるなら~目を向けたい会計上の評価

事業承継とは

事業承継とは企業の経営権を後継者に引き継ぐことです。事業承継には、親族内承継、社内承継、社外承継(M&Aなど)の3つのタイプがあります。親族内承継とは経営者の親族(子供や兄弟など)に対して企業の経営権を引き継ぐために株式を譲渡するような方法のことですが、現在の我が国では少子高齢化の影響を受けて引き継ぐべき親族がいないことから後継者不在が大きな経営課題になっている中小企業は多いようです。社内承継とは企業の従業員などの社内の人間に対して経営を引き継ぐ方法です。会社のことをよく理解している人間に引き継ぐ安心感があると同時に、引き継がれる側としては一時的に多額の資金が必要になるという問題点があります。M&Aを活用した社外承継とは第三者に対して企業の経営権(株式)を譲渡する方法であり、後継者不在に悩む企業にとっては最も利用しやすい事業承継方法だと言えます。


事業承継の際の価値算定とは

スムーズに事業承継を実現させるために自社の企業価値評価が重要になります。また、企業の規模や株主の構成などによっては価値算定方法が異なるうえにルールも複雑なので注意が必要になります。現在我が国の数多くの中小企業が経営者の高齢化を迎えており、事業承継のタイミングに直面していますが、事業承継を円滑に進めるためにはなるべく早い時期から準備・対策に取り組むことが必要です。事業承継においては企業が保有している資産・ノウハウ・人材など様々なものを引き継ぐことになりますが、それらの中でも特に自社株の承継は極めて重要になります。なぜならば取得株価によっては株式取得者に課される税負担が大きく変化するからです。非上場企業のケースでは上場企業に比べると自社株の価格が明確ではないので価格算定が必要かつ重要になります。


未公開会社の株価算定方法

株価算定の目的に応じて未公開会社の株価算定方法は異なることに注意する必要があります。例えば、親族間での株式異動、株式公開(IPO)準備企業の第三者割当増資、従業員に対するストック・オプションの発行、M&Aによる事業譲渡、などによって株価算定方法には大きな違いが生じます。

最初に「純資産方式」を紹介します。企業のストックである純資産に注目した株価算定方式であり、「1株当たりの株価 = 純資産 ÷ 発行済株式総数」という算式で株価を求めます。この方式は、企業が清算手続中あるいは清算する予定がある場合、企業の利益が少なくて赤字体質に陥っているような場合、企業の歴史が長くこれまでに蓄積した利益はあるものの将来的に見込める利益はさほど期待できないような場合、などのケースで利用されています。

純資産方式には、簿価純資産法、時価純資産法(再調達時価純資産法と清算処分時価純資産法)、国税庁時価純資産法、などがありますが、こうした方式は企業の収益性や成長性、そして配当の状況を踏まえていない静的な価値評価であるということ、あるいは債務超過の企業には適用できないといったデメリットがあります。

次いでDCF方式(Discounted Cash Flow、割引現在価値方式)がありますを挙げることができます。DCF方式とは企業が生み出す将来的なキャッシュフローの割引現在価値に基づいた株価算定方法です。計算式は「1株当たりの株価 = 将来的に予想されるディスカウントキャッシュフローの合計額 ÷ 発行済株式総数」となります。なお、将来的に予想されるディスカウントキャッシュフローの合計額は毎年度におけるキャッシュフローを加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて求めることができます。DCF法は成長企業や収益力が高い企業に適しており、一般的な株式売買やM&Aなどの場面で利用されています

次に収益還元方式について解説します。収益還元方式とは1株当たりの予想税引後純利益を資本還元率で還元して、株式評価額とする方式のことです。計算式は「1株当たりの株価  = 1株当たり予想税引後純利益 ÷ 資本還元率」になります。収益還元方式は企業の収益力に注目した評価方式なのですが、欠損会社には適用不可であること、収益の予測と資本還元率の採用に恣意性が介入する可能性がある、などのデメリットも考えられます。

次いで、配当方式ですが、この方式は利益処分の結果である配当金によるリターンに注目した株価算定方法です。主に親族内事業承継の株式売買などで利用されます。なぜならば、少数株主は配当を重視する傾向が高いからです。配当方式には、配当還元法・ゴードンモデル法などがありますが、こうした方式は配当金額が経営政策によって決定されること、収益力や純資産の状況を踏まえていない、というデメリットがあります。

次に比準方式ですが、この方式は同業の上場企業のPERやPBRを比べて株価を算定する方法です。比較することができる上場企業が存在しているようなケースで利用されます。IPO(株式公開)が近い企業にとっては適している考え方です。比準方式には、類似会社比準法、類似業種比準法、取引事例法、売上乗数法、PER方式、PBR方式、などの方法があります。類似会社比準方式は類似している上場企業の事業リスクや成長性に対する市場の考え方・見方を反映しているという部分点において有用・有効な評価方法だと言えます。 なお、上記のPER方式やPBR方式などは類似会社比準方式における簡便的な手法で、資本政策の立案の際の株式公開時の株価算定などで利用されています。また、類似業種比準方式は、同族企業の間における株式取引など、税務面に対する配慮が必要な場面において利用される株価算定法です。


株式価値算定の手順

最も利用されている株価算定手法であり、計算方法が難解だと言われているDCF方式の株価算定は以下のステップで実行されます。

(1)過去の業績を分析する

(2)将来の業績予測と将来キャッシュフローを予測する

フリーキャッシュフローは「当期純利益 + 非現金支出費用 ± 運転資本 - 設備投資」という算式で求めることが可能です。

(3)資本コストを推計する

株主資本コストは「リスクフリーレート + β(ベータ、マーケットリスクプレミアムのこと)」で」求められます。非上場企業の株価算定の実務においてはCAPM理論で求められた資本コストにリスクプレミアムが加算されるケースが多いのですが、株価算定書においてはロジカルな整合性・統一性を十分に担保しておくことが肝要です。

(4)残存価値を推計する

キャッシュフローが安定している状況であれば継続価値を、そうではないケースでは清算価値を、それぞれ使用することがあります。

(5)評価結果を算定して算定結果を解釈する(株価算定の実務経験が重要になる点です)

(6)企業価値、株式価値を計算する

DCF方式は企業のキャッシュフローに注目した株価算定方式ではありますが、将来キャッシュフローの予測と資本コストの推計に恣意性が介入してしまうデメリットも考えらえます。

(7)ディスカウントの要否を検討する

(8)ストック・オプションなどの等潜在株式によるダイリューション(希薄化)の影響を検討する

非上場企業の場合は、価値算定評価が容易ではありませんが、対象会社の状況にあわせて適切な算定方式をケースでは上場企業に比べると自社株の価格が明確ではないので価格算定が必要かつ重要になります。